運動不足が身体と心に与える影響は、想像以上に大きいものがあります。
明るい老後を迎えられるかどうかは、日頃から運動不足にならないよう、身体を動かしているかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。
運動不足のまま毎日をボーッと過ごしていると、身体の色々な器官が退化してきます。血行も悪くなり、さまざまな病気を引き起こしたり、老化を促進したり、さらには脳の働きにも影響を与えます。
50代、60代になって積極的に運動をすることは、豊かな老後を手に入れるための「先行投資」のようなものといえるかもしれません。
運動不足による身体への影響
運動不足は、具体的には次のような症状や病気を引き起こします。
肥満・メタボになりやすい
年齢にかかわらず、運動不足の状態が続いていると肥満を引き起こし、メタボリックシンドロームにもなりやすくなります。
特に50代・60代になると、若い世代に比べ基礎代謝量が落ちてくるため、同じ量の食事をしてもカロリーが消費しきれず体内に脂肪が蓄積して、「中年太り」の体型になりがちです。
体力が低下する
身体を動かさないと、骨量や筋肉量が減少します。その結果、体力が低下して長距離が歩けなくなったり、坂道を上るとハアハアと息切れがするようになります。
また、重い荷物が持てなくなったり、自転車を漕ぐのが苦痛になり、ちょっとしたことでバランスを崩して倒れそうになったりします。
身体のあちこちに痛みが出る
運動をしなくなると、筋肉が徐々に減少し衰えて行きますが、関節の可動域も狭くなってなめらかに動かなくなるので、肩こり・膝痛・腰痛などを引き起こします。
膝や腰に痛みが出るようになると、歩いたり動いたりするのが苦痛になり、さらに痛みがひどくなるという悪循環に陥りがちです。
生活習慣病のリスクが高くなる
50代以降は生活習慣病が発症しやすくなりますが、慢性的な運動不足により、さらにそのリスクが高くなります。
身体を動かさないと、全身の血行が悪くなり高血圧や動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの循環器疾患を発症しやすくなり、糖尿病や高脂血症、痛風などの代謝疾患のリスクも高くなります。
また、骨量が減少して骨粗しょう症になると、背中が曲がったり、少し転んだだけで骨折しやすくなります。
老化が促進される
身体を動かさないと全身の血行が悪くなり、生活習慣病を引き起こしやすくなりますが、同時にホルモン分泌が低下し新陳代謝がスムーズに行かなくなるため、老化が促進されます。
具体的には、薄毛・抜け毛・白髪などが増えたり、シワ・たるみ・シミなど肌の老化現象が促進されます。また、老眼・耳鳴り・難聴などの症状も進行しやすくなります。
免疫力が低下する
私たちの誰もが持っている「免疫力」とは、細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入して来た時、それを異物として認識し、除去して身体を守ろうとする自己防衛機能を指します。
この免疫力は、ウォーキングなどの有酸素運動を継続して行うことにより活性化します。しかし運動の習慣がないと、筋肉量が減少し体温も下がりやすく、免疫力も低下します。
免疫力が低下すると、風邪をひきやすくなったり、さまざまな感染症などにかかりやすくなります。
疲れやすくなる
激しい運動をすると疲れますが、逆に運動不足の場合も疲れやすくなります。
普段から運動をしないと、持久力が低下しスタミナがない状態が続くことになります。また、血流も悪いので、体内に疲労物質がたまりやすくなり、何らかの活動をしてもすぐに「疲れてしまう」ということになります。
さらに、「いつまでも疲れが取れない」という状況になることも珍しくありません。
運動不足による心への影響
運動不足は身体への影響ばかりでなく、次のように心(メンタルヘルス)にも影響を及ぼします。
不眠を引き起こす
多くの人は、加齢に伴い睡眠時間が減少したり、夜中に何度も目が覚める中途覚醒が多くなったりしますが、日頃から運動の習慣がない人は、不眠に悩まされることもあります。
昼寝をたくさんすると夜になって眠れなくなるという事が起こりますが、一日中運動をしないでいると、昼も夜もうつらうつらした状態になります。
運動の習慣をつけると、昼と夜のリズムが整い、運動による疲れを回復しようとするメカニズムが働き、熟睡できるようになります。
精神疾患にかかりやすくなる
うつ病やノイローゼなどの精神疾患は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの分泌不足が原因のひとつとされています。
セロトニンは、精神を安定させ、体調を整えたりする働きがありますが、太陽の光を浴び適度な運動をすることよって脳内への分泌が促されるからです。
また、自律神経の乱れや心理的なストレスも精神疾患発症の原因になりますが、運動不足は自律神経系の働きを抑えてしまうので、気持ちの切り替えがうまく行かず、ストレスの解消も難しくなり精神が不安定になります。
認知症のリスクが高くなる
人間の脳は、加齢に伴い萎縮し認知機能が低下するので、認知症の発症リスクが徐々に高くなってきます。
しかし、運動をすれば全身の血行が良くなり、脳にもより多くの酸素や栄養素が運ばれて認知機能も活発になるため、認知症のリスクを抑えることができます。
また、認知症は毒素である「アミロイドβ」や「タウたんぱく」という物質が、脳内にたまることにより発症することが知られていますが、運動の習慣がない人の脳の中には、アミロイドβが排出されずに残り、タウたんぱくも過剰に発生し、認知症のリスクが高くなると言われます。